ニュース見て思ったこと

ほんとはFacebookに投稿しようと思って書きはじめたものなんだけど、長くなったしなんとなく思いついてブログのほうに晒しとこうと思います。気づいたら2年半ぶりくらいのブログと投稿になるんだけど、とくに意味深いものじゃありません。

 

【起きろ社畜】AIが社員の「まぶたを監視」して居眠りさせないようにする鬼システムが話題に! ネットの声「すごい奴隷制度」「国会に導入せよ」

https://rocketnews24.com/2018/07/26/1095540/

 

いま絶賛話題のダイキン工業さん&NECさんが実験中の まぶた監視->空調制御による居眠り抑制の実証実験について思ったこと。

ネットニュース初見では、「これがAI, IoTといったテクノロジーについて、世間一般の人への不信感を増大させるためが目的だとすると、実によく練られたソリューションである意味すごいな!」と思ったんだけど、さすがにそんなことはないだろうと思ってプレスリリースを探して読んでみた。

http://www.daikin.co.jp/press/2018/20180725/

仮説と検証方法の脈絡を読み解いてみると、ソリューションの目的は「従事者に適切な覚醒レベルを提供して生産効率を維持する」ということにみえる。 特に2) 検証結果のグラフをみると温度刺激に加えてアロマによる芳香刺激、ライトによる照明刺激とその複合によって覚醒レベルをコントロールできることが示唆されていて興味深い。

このような検証をもとに今回のプロトタイプでは空調、照明の効果をピックアップしてその制御に依る覚醒レベルのコントロールを実証実験中。というのが正確な表現になるだろう。一概に「部屋を冷やして疲労した社畜を強制労働させ続ける」ということを狙ったものではない感じがした。

一方で、本検証・実証については以下の疑問も出てくる。

1. 本仮説にはヤーキーズ・ドットソンの法則が引用されているが、本法則に照らせば、ある一定水準のストレス状態に対して適切な刺激を与えると、覚醒レベルを維持向上させることができる示唆がされているが、逆にあまりに高いストレス状態に対して刺激を与えることは逆効果につながると説明されている。

https://en.wikipedia.org/wiki/Yerkes%E2%80%93Dodson_law

本検証において、まぶた監視によるストレス検知が当該法則で説明されている刺激を与えるに妥当なストレスレベルを検知できる手法であるのか?まぶたが下がりはじめた状態は睡眠初期でありストレスレベル軽であると仮定しているのであれば、その人のその時点での健康状態についての睡眠重要度が不明であるため、もしその時睡眠をとらなければ体調に不調をきたす状態であった場合、刺激を与えることが当該法則により不適当ということになる。そのあたりの考慮はされていのか?

2. 本仮設はヤーキーズ・ドットソンの法則の覚醒度(the level of arousal)を眠気ストレスを測る度合としての"覚醒度"と同一視しているように見受けられるが、当該法則における arousal levelとは(to increase motivation) と説明されていて、どちらかというとやる気を測る指標である。このあたりは論文を読んでいない上で恐縮だが、当該法則について説明されているページをいくつか読んだ上ではやはり当該法則の「覚醒度」とは「やる気」に関係するもののようだ。

ということは本検証は「眠気のない状態」=「やる気のある状態」という前提のもと構築されていることになり、本検証から出力されるソリューションは平たく言えば「眠気をなくせば、みんな意欲的にバリバリ働くのでオフィスの眠気を払拭しましょう!」というものになると推測される。

... これマジだろうか?みなまでは言わないが。あまり極論を言いたくはないが、「オフィスに出勤している時点で意欲的に仕事をする気に違いない」という仮定は経営的観点からも誤りであり、「従業者のモチベーションはその人の身体、精神、周辺状態により日々変化している」という実際を無視していると捉えることもできるように思う。この点に対して、本検証ではどういう議論がされたのかが気になるところである。

以上のことを鑑みてみると、本実証実験はまあAIやIoTを貶める目的でないことやある程度の仮説検証プロセスに基づき計画され明確な効果を狙ったプロジェクトであることが見える一方、これから引き続き検討しなければならない課題や検証がいくつかあることがうかがえる。個人的に思いつくのは、

1. すべての眠い従業員を起こすことが妥当でない場合がある。何らかの方法で個々の従業員を計測し、本当に睡眠が重要な人にあっては別のケアを実行することをサブシステム等で設ける必要かもしれない。

2. 本検証の効果から、上記疑問2についての前提が本当に妥当であるかどうかが生産効率の変化を計測することによって検証できるだろう。多くの従業員にとって従業中の「眠気のない状態」が「やる気のある状態」であれば良し。そうでなければソリューション全体を見直す必要に迫られるのかもしれない。この点は興味深いのでぜひ検証の報告を待ちたいものである。

以上。

あ、あと大企業が莫大な予算を投じてやっているAIやIoTの実証実験なので面白おかしく取り上げてTogetterあたりを盛り上げたいのはわかりますけどね各紙。ちょっとはコンテキストを読み解いて書いてあげるのも世の中のためによろしかろうと思いますよ。

あとTwitterに書きたい人も、書く前に一回公式プレスリリースをみてそれでも面白おかしくdisれると判断したときに、絶賛書いたほうがいいと思います。